「駐車場に座り妹を待つ」 中学生のころ、妹の外で遊んでいました。妹が夕飯を食べに家に帰ったので、わたしは外で待っていたんです。
今になって思えば、わたしも一緒に帰れば良かったですよね。なんで外で待っていたのでしょうか。勝手に自分のぶんの食事は無いと思い込んでいたんです。
虐待されていたわけじゃありませんよ。母は人数分の食事をちゃんと用意してくれていました。
夕方で静かな時間でした。近所から晩ごはんの香りがしてくるんですよ。お腹がすいたな。駐車場にある車止めに座って、妹が戻ってくるのを待ちました。
「近所でも有名な野良猫」 すると1匹の猫が現れたんです。妹から話は聞いていました。このあたりにノラネコが現れて、子ども達のあいだでは噂になっている、と。
まさか、本当に会えるとは思っていませんでした。しばらく猫と見つめ合います。こちらを伺うように、ソロリソロリと近づいてきました。
ずいぶん人懐っこいな。 そのまま膝の上へ。なにかを訴えかけるように、わたしを見つめます。これは撫でろということなのでしょうか。
おそるおそる撫でてみました。のどをゴロゴロ鳴らしてくれたので、どうやら正解だったようです。猫の反応を見ながら、撫で続けていました。
「飼ってやれない悔しさ」 ノラネコにしては毛並みが美しく、もしかして飼い猫が逃げたのでは。ですが、中学生のわたしにはどうする事もできません。
家はアパートですから、面倒を見ることも不可能です。そもそもペットを飼う余裕もありません。
ごめんね、飼えないよ。 言葉が通じるかはわかりません。でも、気づいたら謝っていました。わたしが大人だったら飼えたのかも知れない。
悔しくて仕方ありませんでした。やがて妹が戻ってきました。それと同時に猫は消えてしまいました。まるで寂しいわたしの話相手になってくれていたように。
それから、その猫には会っていません。美しい猫だったから飼い主が見つかったのでしょうか。
猫が幸せならソレが一番ですが、もっと撫でていたかったというのも本音です。ぬいぐるみとは違うズッシリした感触も、抱きしめたときの体温も、ちゃんと生きているんだと感じさせてくれました。